June 27, 2004

[論文紹介] 『The MyLifeBits Lifetime Store』

Posted at June 27, 2004 07:13 PM in アホの子だけど論文を紹介しちゃうぞ .

Microsoftのやってるプロジェクト『MyLifeBits』に関する論文。MyLifeBitsについてはITMediaのこの記事なんかを参照すると、だいたいのところが掴めるとおもう。

MSの「MyLifeBits」は何から何まで記録する
http://www.itmedia.co.jp/news/0304/21/cead_coursey.html

 

ストレージの大容量化に伴って、人間の一生をまるごとハードディスクの中に溜め込めるようになりました。そこでそのためのデバイスやアプリケーションを作っていきましょう、というのがMyLifeBitsの骨子で、プロジェクトのリーダーであるGordon Bellというひとが自ら実験台となり、日々の記録を蓄積している。

We have used Gordon Bell’s life for an experimental corpus. Everything possible from his past has been digitized, including: articles, books, cards, CDs, letters, memos, music, papers, photos, posters, paintings, presentations, home movies, videotaped lectures, and voice recordings. These are combined with media from his PC such as digital photos, email, and calendar events.

日常生活の中で関わったものを、デジタル化可能ならばなんでも保存してしまおうという、非常に徹底したアプローチで、上の一節を読んでぼくなどはちょっと吃驚してしまった。読んだ本や聞いたCDは良いとして、電話の内容や手紙までを保存の対象としてしまうことには、ぼくなら抵抗を感じるからだ。データをため込んだPCをhackされて誰かにデータを盗まれたらどうするのかとか、Gordon Bellは心配じゃないんだろうか。上に挙げたITMediaの記事では、「プライバシなんて知ったことか」的な発言をしているが、彼くらいの情熱に駆られると、そんなことは気にもならなくなるのかなあ。

 

それにしてもこのシステムは非常にスケールがでかい。日常生活を記録していくためのカメラやマイクといったウェアラブルなデバイスを作らなくちゃならないし、膨大なデータを管理するためのデータベース技術が必要になるし、文章画像音声動画と異なるメディアを統合的に扱うための検索技術だって必要だ。それだけじゃない。データを守るためのセキュリティは? 軽快で使いやすいユーザ・インターフェースは? ブラウザやEPGとの連携は? ……挙げていくと切りがない。論文中にはシステムの概要図が示されているのだが、なんとも壮大で、Microsoftの潤沢な人的・経済的なリソースがあってこそのプロジェクトだという感じがする。


MyLifeBitsのシステム図(クリックでpopup)

 

また、論文のなかに次の一節がある。

The MyLifeBits system supports capture, storage, retrieval, reporting, annotation, and story creation.

MyLifeBitsが、単純にありとあらゆるデータを溜め込むだけのシステムではなく、そこから先の、検索や注釈付けまでを含んだものであることが述べられている。"story creation"ってのが何なのかが気になるが、論文中ではこれ以上触れられていない。storyっていったい何だ。絵本仕立ての物語でも作ってくれるんだろうか。

実際、日常の膨大なデータをデジタル化し、巨大なストレージに溜め込んでいくことは、このシステムのほんの入り口に過ぎない。溜め込んだデータを適切にインデクシングし、ユーザがそれを活用していくことに本質があるのだとおもう。話はやや逸れるがぼくの研究室にこのMyLifeBitsにやや通ずる研究をしている先輩氏がいるのだが、氏のやろうとしていることにしても、データを蓄積することはあまり重要でないというか、わりと些末的な事項なのであって、蓄積したデータをどうやって後から活用できるようにしていくかが研究の要になるんじゃないかと思うんだが氏はいまいちそのあたりを認識していないような気がしてちょっともったいないなとおもう。まあそれはいいとして。

 

切りの良いところでエントリを分ける(続く)。



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Comments

間違ってるかもしれませんが、
<story>ってのは多分お話=<物語>のことだと思います。

今じゃ何もかもが全部ただのお話ってことになってるらしいです。
<科学>とか<歴史>とか<人生>とか。
たとえば<歴史>は、過去の事実じゃなくって今残ってる資料とか証拠から過去をリプレ(表象)したものってのが一般的な話らしい。
つまりある意味過去の話じゃなくて、今の話。
で、どの証拠やどの資料を使って今どう編集するかっていうリプレの仕方でいろんな<歴史=物語>ができます。
同じ事件でも、国(歴史)によって話が違うことはよくあります。
いわゆる<ポストモダン>とかの話です。
<アート>とかでも、今までにないような作品をつくることを、
「新しい物語をつくる」とか「新しい文脈をつくる」とかってよく言ってます。
だから何か行動することや自分の人生の記録をつくることも、
「物語をつくる」って言うみたいです。(OIOIのCMでも言ってる)
記事の前後を読んでないのでわかりませんが、ただの慣例だと思います。

ただ、批評用語とかでよく出てくる<物語>は<Narrative>って単語ですが。

それにしても、このシステムは面白そうですね。
僕は一般的なヒトは物語をつくることに興味があるんじゃないかと思います。
つまり、そのほうがたくさんのデータが蓄積されやすいんじゃないかと。

Posted by master-panda at June 27, 2004 11:51 PM

ほむ。確かに人間の寿命なんてせいぜい100年しかないわけで、過去のことは書き残されたものや伝承されたものを通じてしか知ることはできないですね。アートのことはまったく明るくないですが、物語を作るという表現はなんとなく分かるような気がする。

年とってから自分史を書き始めたり自分の人生の年表を作ったりするのも、たぶん物語をつくって残しておきたいっていう欲求からですよね。そういう意味でストーリーを作れる? システムを目指しているのかもしれない。技術的にはとてつもなく困難で、どうやったらできるのか想像もつかないけれど。

Posted by 井原 at June 29, 2004 11:04 AM

思わずコメントを書いてみたくなりました。突然ですいません。

Gordon Bellの言うように、このようなシステムをフラットに作るというのはあまりに素朴に過ぎると思いますが、心配しなくても人はそれほど"盗まない"みたいですし、ましてやGoogleにインデクシングされなければ、存在しないのと一緒でしょう。
Story creationというよりむしろ、自分が何を考えているかを考える手だて、または、次にすべきものごとの道を見極めるstory predictionといったことなら、自分史というような消極的な使い道でなく実用性があり得るかも知れません。

Posted by imai at September 22, 2004 01:59 AM

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